(1)アミノアシルtRNA合成酵素の構造解析。Cross-Species PCR法により、ヒト細胞質型、ミトコンドリア型アミノアシルtRNA合成酵素遺伝子断片を多数単離した。これらをプローブに用い、ヒトcDNAライブラリーから、細胞質型グリシン、アラニン、リジン、また、ミトコンドリア型、メチオニンに対する全長cDNAを単離し、その塩基配列を決定した。決定したヒトアミノアシルtRNA合成酵素の一次構造を、大腸菌のそれと比較すると、アラニン、リジン等は高い類似性を示すのに対し、グリシンでは、一次構造上の類似性は見いだされなかった。また、ヒト細胞質酵素は、大腸菌が持たない新たに進化してきたと思われるドメインをもつ場合が多い。 (2)生物種特異的なtRNA分子認識機構の解明。クローン化したヒト遺伝子を用い、大腸菌+T7プロモーター、あるいは、Pichia酵母を用いた酵素大量発現系を構築し、ヒトと大腸菌の種間tRNA認識能力をin vitroで検討した。グリシルtRNA合成酵素は、互いに排他的な種特異的tRNA認識を示したが、アラニルtRNA合成酵素では、種特異性は観察されなかった。大腸菌ノックアウト株を用いたin vivoでの相補性実験では、ヒトのリジルtRNA合成酵素が大腸菌リジルtRNA合成酵素遺伝子ノックアウト株を相補できた。アラニルtRNA合成酵素、リジルtRNA合成酵素では、大腸菌とヒトの間では、tRNA認識機構が保存されているのが分かった。 互いに排他的な種特異性認識を示したグリシンの場合、大腸菌の系で明らかにされているグリシンtRNA分子上のアイデンティティー決定塩基のうち、識別塩基であるU73が、真核生物の細胞質グリシンtRNAではAとなっている。この識別塩基の違いが種特異性の原因となっていることを、ミニヘリックスを用いたin vivo系で示した。生物種の分化と共に、tRNA分子とアミノアシルtRNA合成酵素の相互認識機構も多様化してきたことが明らかとなった。
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