研究概要 |
シロイヌナズナから単離した葉緑体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(FAD7)をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターにつなぎ,形質転換タバコで過剰発現させたところ,葉において全脂肪酸に占めるトリエン脂肪酸(18:3+16:3)の割合を60%から70%までおよそ10%増加させることができた。また,トリエン脂肪酸の増加は,MGD,DGD,PG,SLなど主要な葉緑体の脂質分子種すべてにおいて見られた。このようなトリエン脂肪酸の増加がタバコの低温適応能力に及ぼす効果を調べるために,25℃で生育させた植物体に連続光照射下で1℃7日間の低温処理を行ない,その後の生育(25℃)について,野生株と形質転換タバコとの比較を行なった。このような低温ストレスを与えた野生株の成熟葉には傷害は起きなかったが,幼葉はその後の成長が著しく阻害され,半数以上の植物体においてクロロシスが見られた。また,クロロシスは暗黒中で低温ストレスを与えても生じないことから,光依存性の傷害であることがわかった。一方,形質転換タバコでは,成熟葉と幼葉のどちらも低温処理を行なっていない植物の葉と同様の成長を示し,クロロシスもほとんど見られなかった。野生株と形質転換タバコにおいて,葉の成長に伴う脂肪酸の不飽和度の変動を調べると,ともに幼葉の段階ではトリエン脂肪酸の含量は少なく,葉が伸長する(すなわち成熟する)につれて増加することがかわった。しかし,形質転換タバコの場合,トリエン脂肪酸の含量は,葉の伸長のほぼ全ての段階で野生株に比べ10%程度高いことがわかった。これらの結果は,野生株の幼葉で生じた低温ストレスによる成長阻害やクロロシスはトリエン脂肪酸の含量が低いことに起因していることを示している。よって,葉緑体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を導入することにより,トリエン脂肪酸含量を増加させることができれば,高等植物の低温適応能力を向上させることが可能であると考えられる。
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