高温で生育したラン藻、Synechococcus PCC7002 は酸素発生系の高温耐性を獲得し、獲得された高温耐性は単離されたチライコイド膜においても保持されていること、およびチラコイド膜に含まれる低電位型のチトクロームc550が獲得された高温耐性を保持するのに必須の要因であることが明らかにされている。本研究計画ではラン藻におけるチトクロームc550による酸素発生系の高温耐性化の機構および高温適応に関与する他の要因の解明を試みた。 40℃で生育したSynechococcus PCC7002のチラコイド膜を0.1% Triton X-100で処理したのちチトクロームc550を再構成させると、チラコイド膜における酸素発生の高温耐性が回復する。しかし25℃で生育したSynechococcus PCC7002のチラコイド膜をTriton X-100処理したものにチトクロームc550を再構成させても酸素発生の高温耐性は回復せず、チトクロームc550はチラコイド膜に新たに高温耐性を付与することはできない。 ノーザンハイブリダイゼイションによって検出したチトクロームc550のmRNAのレベルについても25℃および40℃における生育において数時間の間顕著な増減は検出されなかった。またチトクロームc550は25℃およびで40℃のいずれで生育した細胞から調製したチラコイド膜画分にも光化学系II当たり約0.5分子存在し、高温での生育によって含量が増加する傾向は認められなかった。 以上の結果より、チトクロームc550は高温で生育したラン藻における酸素発生の高温耐性を保持するには不可欠の成分であるが、高温環境への適応に伴って誘導されるものではなく、これが単独でチラコイド膜に高温耐性を付与するものではないと判断された。 一方、40℃で生育したSynechococcus PCC7002のチラコイド膜から0.1% Triton X-100処理によって遊離した成分のなかに、25℃で生育した細胞のチラコイド膜の酸素発生を高温に対してより安定化する成分の存在が確認された。チラコイド膜から遊離した成分をDEAEカラムによって分画した結果、18kDaのタンパク質を主成分とする分画に酸素発生の高温耐性化の作用が認めらた。
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