脳は、ニューロン活動の時間的、空間的分布(どのニューロンがいつ活動するか)によって情報を処理し表現していると考えられえる。従って、大脳皮質連合野の扱う認知、記憶、判断など高次の脳機能の解析にも、学習課題遂行中の刺激、行動に対応したニューロン活動の空間的、時間的変化の解析が有力な手段となる。今年度は、3頭のサルの上側頭溝から約400個のニューロン活動を視覚弁別課題遂行中に記録し、同じサル、同じ写真セットでテストできたニューロンの活動をプールし、それぞれの写真によってユニークなニューロン活動の時間パターンを持つかどうかを解析した。ヒトの顔写真のセットでは最大応答を示したのは著者の顔であったが、最小応答の写真(研究室のスタッフのKK)との差は小さかった。サルの写真セットでは、チンパンジーの写真が最大応答を示し、最小応答は野性のニホンザルの横向きの写真であった。物の写真では、最大応答は掃除用の手袋をはめた手、最小応答は注射筒であった。時間経過はサルで持続時間が短く(phasic)、ヒトの顔と物で持続時間が長い(tonic)傾向にあった。他のサルの写真セットに対する反応もphasicの傾向があった。しかし、個々の写真によって独特の時間経過のパターンがあるという十分な証拠は得られなかった。一方、個々のニューロンでは、同じニューロンの反応が呈示した写真によって潜時も持続時間も異なる場合がしばしば認められた。このように、個々のニューロンのレベル、それぞれの処理レベルでは、時間コーディングが使われている可能性が示された。
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