遅延期間中に保持すべき位置の情報を複数にすると、ニューロンの記憶受容野はどのような影響をうけるのかに注目し、研究を実施した。2頭のサルに、注視と記憶誘導性眼球運動を組み合わせた2種類の遅延反応課題を学習させた。2種の課題とは、1カ所の目標位置の作業記憶を要求する遅延眼球運動課題、2カ所の目標位置とその呈示順序の作業記憶を要求する遅延連続眼球運動課題である。いずれの課題でも目標位置の呈示と反応の間に3〜5秒の遅延期間を入れ、この間目標位置に関する情報が作業記憶として保持されるようにした。注視点や目標位置は大型テレビ画面上に呈示し、眼球運動は赤外線カメラを利用したモニター装置で検出した。 まず、遅延眼球運動課題におけるニューロン活動を分析し、視覚受容野、遅延期間活動の位置選択性をもとにした記憶野、眼球運動の応答野など、各ニューロンの基本的な特徴を明らかにした。次に、遅延連続眼球運動課題におけるニューロン活動を分析し、作業記憶として保持すべき情報量の増加により遅延期間活動の位置選択性にどのような変化が生じるのか、情報の呈示順序や保持されている情報を利用する順序は遅延期間活動にどのような影響を与えるのか、を検討した。記憶野をもっていた26個のニューロンで調べたところ、大部分は、視覚刺激が記憶野内に最初の刺激として呈示された試行では遅延期間活動を示したが、記憶野外に呈示された視覚刺激と組み合わされ、記憶野内に二番目の刺激として呈示される試行では遅延期間活動が観察されなかった。このことは、記憶野を持つニューロンは、その記憶野の周辺部に記憶野をもつニューロンから抑制性の入力をうけていることを示唆する。この現象は、感覚皮質や運動皮質で見出されている側抑制と同一の現象と考えられる。このように、個々のニューロンは比較的単純な情報処理をしているが、側抑制をはじめとするニューロン間の相互作用により、複雑な情報表現が可能になっているのではないかと考えられる。今後、側抑制以外のどのような相互作用が存在するのか、それらによりどのような情報表現が可能になるのかを検討する計画である。
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