海馬が担う記憶は陳述記憶や空間認知に関連しており、入力情報相互の関係、さらに入力情報と内部的な記憶との関係を作り出すことによって生成される記憶である。このような意味の関係記憶は、意味的整合性のもとにいかに要素的情報を統合するかが問題である。本研究では、海馬固有の関係性としての記憶生成機能を、要素的情報を柔軟にリンクするメカミズムとしての「振動同期」の上にたって、神経回路モデル上での情報処理原理として明らかにすることを目的としている。 まず、数理的なツールとなる位相神経素子の結合系における分岐構造を解析し、固定点アトラクターとリミットサイクルアトラクターとしての記憶想起活動の分岐条件を得た。また海馬体をトリシナプティック回路としてコバリアンスルールに従うシナプス可塑性をもつとしてモデル化すると、位相がタイプIのシ-タリズムと同等な場合に、内嗅野での同期リズムが同期の遠達的作用により、回路全体でのシナプス可塑性をもたらすことを示した。またこれらの知見に基づいて認知図生成の神経回路のモデル化を行い、そこで生成される位相関係などの解析を進めている。
|