hsp70ファミリーに属するストレス蛋白質は、細胞のストレス応答時は勿論、非ストレス時においても、種々の蛋白質の細胞内輸送における分子シャペロンとして重要な働きをしていると考えられる。酵母は遺伝学的解析が容易なこと及び、哺乳動物に類似した細胞内輸送系を持っていることから、そのhsp70ファミリーは哺乳動物のモデル系として詳しく研究されており、これまでに既に9種類のストレス蛋白質遺伝子の存在が明らかにされている。これらは、様々な細胞機能において重要な役割を果していることが明らかにされつつある。研究代表者等はhsp70ファミリー蛋白質がカルモジュリン結合能を持つ性質を利用し、新しいストレス蛋白質遺伝子SSE1をコードするcDNAおよび遺伝子のクローニングに成功した。このSSE1はこれまで報告されている種々のhsp70ファミリー蛋白質とATPaseドメインでは高い相同性を示すものの、全体では最高でも約30%の相同性しか示さなかった。また、SSE1破壊による形質変化(slow growth)は、既知のストレス蛋白質遺伝子によっては相補されないので、SSE1はこれまで知られているhsp70ファミリーの蛋白質とは異なる固有の機能を持つと考えられる。本年度は、hsp70ファミリーと結合すると思われる新しいdnaJ蛋白質遺伝子CAJ1を発見した。CAJ1はSSE1やSSB1などのhsp70ファミリーと同様、酵母のカルモジュリン結合画分に存在していたが、その発現は細胞にたいするストレス負荷によっては変化しなかった。また、得られたcDNA配列と遺伝子配列を決定し、全アミノ酸配列を予測したところ、hsp70ファミリー蛋白質と結合すると思われるdnaJ領域および、ホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成するとおもわれるロイシンジッパー構造を持つ事が明らかになった。
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