研究概要 |
熱のストレスによってより多量に生産される熱ショック蛋白質(HSP;Heat Shock Protein)は細胞内蛋白質の大きな立体構造変化に関与し,細胞機能に重要な役割を果している。これら熱ショック蛋白質の中の,in vitroでも蛋白質の立体構造・高次構造形成に関与する大腸菌のシャペロニンGroE(GroEL(Hsp60),GroES(Hsp10))の構造と機能について研究を行なった。 1.シャペロニンGroEの構造 大腸菌のシャペロニンGroELのX線結晶構造解析がYale大学のグループによってごく最近なされた。GroELは分子量5万8千のサブユニットの14量体からなる巨大オリゴマー蛋白質である。中央に直径45Aの穴をもつ特徴のあるGroELは分子量1万のサブユニットの7量体からなる同様な構造をしたGroESとATP,ADP存在下で複合体を形成する。このGroEL-GroES複合体形成をキャピラリー電気泳動を利用して,シャペロニン活性に有効であることがすでに確かめられている他のヌクレオチド(CTP,UTP,ATP-γ-S,AMP-PNP)存在下でも同様に調べた。すべてのヌクレオチド存在下でGroEL14とGroES7は1対1で複合体を形成することが明らかになった。 2.シャペロニンGroEの機能発現 シャペロニンGroEの機能発現について,様々な酵素を“基質"として詳細に調べた。また,その機能に重要な働きをするヌクレオチドについても詳細な検討を行った。GroELは様々な蛋白質の再生中間体と複合体を形成し,一時的にその再生反応を止める。この複合体はATPの添加によって解離し,解離した再生中間体は効率よく再生する。GroE分子は様々な種類の蛋白質の構造形成にかなり広範囲にわたって機能するものと考えられる。 一方、GroELのヌクレオチド特異性を調べたところ,GroESが存在するとATPだけではなくADP,CTP,UTPによっても再生中間体は効率よくGroELから解離し,活性を回復することが明らかになった。ADPはGroELによって加水分解されないので,ATPの加水分解エネルギーを利用してGroEは機能しているのではなく,ヌクレオチドのGroELへの結合が重要であると思われる。ヌクレオチドがGroELに結合することにより,GroELのコンホメーションが変化し再生中間体がスムーズに解離し正しい立体構造が形成するものと考えられる。GroESはこのとき,ADP,CTP,UTPの結合によるGroELのコンホメーション変化をさらに強めるような役割をしていると考えられる。
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