細胞内に於ける蛋白質の折れたたみや他の蛋白質との複合体形成、蛋白質の膜透過に先立つ前駆体蛋白質のunfoldingなどは多くの場合自発的に起こる過程ではなく、シヤペロンと総称される蛋白質の助けを借りて進行すると考えられている。我々は小麦胚芽系で合成したミトコンドリア前駆体蛋白質のミトコンドリアへのインポートを促進する因子(MSF)をラット肝細胞質より精製した。蛋白質のミトコンドリア膜透過の過程で細胞質に於いて働くMSFの構造、機能ならびに作用機序をin vitro及びin vivoにおいて明らかにすることを目的として研究を行ない次の事柄を明らかにした。 (1)凝集したミトコンドリア前駆体を確認しATPの加水分解に依存して凝集をときほぐす。(2)構造のほぐれた前駆体と複合体を形成し、前駆体をインポートされやすい状態に保つ。(3)凝集したミトコンドリア前駆体存在下で高いATPase活性を示す。(4)化学合成したミトコンドリア標的シグナルを認識して結合しATPase活性を示す。(5)ミトコンドリア前駆体をミトコンドリア外膜に標的する活性を持ち、この活性はNEMで強く阻害される。(6)ミトコンドリア外膜上にMSFの受容体が存在する。(7)ミトコンドリアへの蛋白質輸送にはMSF依存の経路とhsp70依存の経路とが存在する。 以上、MSFが前駆体蛋白質のミトコンドリア標的に関わるユニークな分子シャペロンであることが明らかとなった。
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