増殖中の酵母培養液にガラクトースを加えると、この糖を分解する酵素系の構造遺伝子群(以下、GAL遺伝子)の転写が一斉に始まる。この転写誘導には、各構造遺伝子の上流にあるエンハンサー(UASG)に結合するアクチベータ-Gal4タンパク(Gal4p)およびこれに結合してその働きを抑えるGal80タンパク(Gal80p)の他に、Gal3タンパク(Gal3p)が必須である。最近の我々の実験結果は、転写誘導すなわちGal4pの活性化が細胞内のGal80pとGal3pの量的バランスによって行われていることを示唆した。すなわち、Gal3pを過剰発現させるとGAL遺伝子は構成的に発現するが、Gal80pを同時に過剰発現すると構成的発現は抑えられることが判った。このことはまた、Gal80pとGal3pが細胞内で相互作用することを強く示唆する。そこで、インフルエンザウイルスのHAエピトープをGal3pのN‐末端に連結した融合タンパクを野性型酵母内で過剰発現させ、その粗抽出液からHA抗体を用いてHA‐Gal3pを沈降させた。この酵母をガラクトース存在下で増殖させた時にはGal80pが共沈することが判った。ところが、この酵母をグルコース存在下で増殖させたときにはGal80pの共沈は極めて僅かにしか見られなかった。そこで、HA‐GAL3遺伝子にヒドロキシアミンを用いてミスセンス変異を導入し、そのうちでウエスタン解析で正常な大きさのHA‐Gal3pをつくるものについてGal80pとの結合能を調べた。その結果、調べられたすべて(3株)はGal80p結合能を失っていた。このことは、Gal3pとGal80pとの相互作用が転写誘導に重要な役割を果たしていることを強く示唆している。
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