植物の熱ショックタンパク質における機能の分化を解明するためのてがかりとして、ラン藻 Synechococcus PCC7002に存在する2種類の groEL 遺伝子(groEL-αとgroEL-β)について以下の解析を行った。 1.いずれのgroEL 遺伝子のmRNAも、熱ショック処理によってそのレベルが上昇した。groEL-αは大腸菌の GroEL と同様に groES 遺伝子とオペロンを形成していたが、groEL-βには groES 遺伝子が付随していなかった。一方、groEL-βの塩基配列から予測されるアミノ酸配列のC末端側には大腸菌の GroEL と同様な Gly-Gly-Met の繰り返しがみられた。 2.Synechococcus PCC7002 のゲノムDNA上のgroEL-β遺伝子にカナマイシン耐性遺伝子のカートリッジが挿入された形質転換体を作製した。野生株およびgroEL-βが破壊された形質転換体のいずれにおいても、熱ショック処理後、致死温度である48℃での生存率が増大した。しかし形質転換体では野生株を熱ショック処理した場合より生存率が低かった。従ってラン藻 Synechococcus PCC7002 はgroEL-α のみでも熱ショック応答の能力を保持しているが、groEL-β はこれに付加的に作用して、その能力をさらに強めるものと判断できる。現在 groEL-α が破壊された形質転換体を作製中であり、その熱ショック応答についても解析を行う予定である。 3.GroEL-α、GroEL-β をpET あるいは pPro ベクターを用いて組み換えタンパク質として大腸菌において大量発現させ、それぞれを単離精製した。現在これらの組み換えタンパク質とこれに対する抗体を用いた免疫沈降法、あるいはゲルろ過法によって、GroEL-αとGroEL-βにおいて複合体を形成するタンパク質に差異があるかどうかを検討中である。
|