研究概要 |
タバコ培養細胞BY-2は、合成オーキシンである2,4-D(0.2mg/l)を含む通常の培地中では活発に細胞増殖を行い、その色素体は培養の全期間を通じて未分化な原色素体の状態を保つ。一方、2,4-Dを含まず、合成サイトカイニンであるBA(1mg/l)を添加した改変培地中では細胞はほとんど増殖せずに著しく大型化し、色素体は大量のデンプンを蓄積してアミロプラストに変換する(Sakai et al.1992)。今年度は、BY-2細胞の植物ホルモンに対する応答を詳細に解析し、アミロプラストの分化誘導に関しては-2,4D,+BAの条件が最良であることを確認した。しかし、ホルモンを全く含まない(-2,4-D,-BA)培地中でもデンプンの蓄積が認められることから、BY-2のアミロプラスト分化誘導では2,4-Dの除去が第一の要因であり、BAは2,4-Dの除去によって生じる変化を促進していると考えられる。それぞれのホルモンに対する応答を調べた結果、2,4-Dは細胞増殖を促進し、デンプン蓄積を抑制すること、BAは逆に細胞増殖を抑制し、デンプン蓄積を促進すること、そしてこれらの反応はホルモン濃度依存的であることが確認された。2,4-DとBA以外のオーキシンやサイトカイニンも類似の作用を示すことから、これらはオーキシン、サイトカイニンに共通の効果であると考えられる。各種培養条件を比較すると、細胞増殖率の低下とデンプン蓄積量の増大は平行関係にあった。しかし、真核型ポリメラーゼαの阻害剤であるアフィディコリンを添加して細胞の増殖を強制的に停止させても、デンプンの蓄積量は培地の種類ごとに明らかに異なっていた。したがって、デンプンの蓄積は増殖率の低下によって二次的にもたらされるのではなく、ホルモンにより独自の制御を受けていると考えられる。また、単離色素体核を用いたin vitroアッセイ系によりアミロプラスト分化過程における色素体ゲノムの機能変化を調べた結果、転写・複製活性ともに不活発であることが明らかになった。
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