脊椎動物の背腹構造の形成機構は発生生物学における重要課題の一つである。メダカの突然変異Daは脊椎動物では稀有の背腹構造突然変異である。本研究では変異形質の形成過程を黒色素細胞の配列、膜鰭形成、筋節形成の三つに注目して、形態変異が最も顕著な尾部(肛門から後方)について形態学的な検索を行った。 黒色素細胞の配列の腹側化:メダカでは3日胚で黒色素細胞が背側と腹側の正中線に出現する。尾部でその配列を見ると野生型では背側1列腹側2列であるが、Daでは背側の配列は腹側と同じ2列になっている。この配列様式は孵化直前まで続く。Daでは背側の腹側化が黒色素細胞の出現直後から起っているのである。 膜鰭の形成の腹側化:メダカの3つの正中鰭(背鰭、尾鰭、尻鰭)は1枚の膜鰭として発生する。背側膜鰭は4日胚で発生するが、野生型ではその先端は尾部第7体節で、腹側の先端は尾部第1体節に達している。発生が進んでもこの位置関係は変化しない。ところがDaでは、背側膜鰭の先端は野生型のものより3体節分前方に発生し、その後尾部第1体節まで伸長する。これによって、Daの背鰭は尾鰭と同一の形態をとることによって腹側化することが明らかになった。 筋節の腹側化:2日胚では筋節は野生型、Daともに左右両側に位置している。ところが野生型では孵化直前までに左右筋節は背方に成長し、正中線で融合して神経管を覆い、背側に特徴的な形態をとるようになる。腹側では、このような成長は見られない。Daでは背側筋節でも背方への成長が見られず、腹側と同一の形態をとっている。これらの結果からDaでは背側構造の腹側化が筋節のような主要組織も含めて、広範に生じていることが明らかになった。この現象の原因遺伝子の解析が今後の課題である。
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