ウニ発生においてアリールスルファターゼ(Ars)遺伝子は発生時期特異的(孵化期)に転写開始し、その発現は胚組織(反口外胚葉)特異的である。胚当たりのアリールスルファターゼ蛋白質の量は、プリズム胚で全蛋白質の1%以上に達する。本研究では、Ars遺伝子をモデルとして、初期発生における遺伝子の発生時期特異的発現および組織特異的発現の調節機構を明らかにするとともに、ウニ胚形態形成におけるArs蛋白質の役割の解明をめざしている。本年度の研究成果は下記の通りである。 (1)Ars遺伝子の転写調節に関わるシスエレメントの検索。シスエレメントの検索にはルシフェラーゼアッセイを用いた。Ars遺伝子のさまざまな領域の制限酵素断片を作り、ルシフェラーゼ遺伝子の上流につないだプラスミドをバフンウニ受精卵に導入し、卵を発生させてからルシフェラーゼの発現を測定した結果、発生時期特異的転写の調節に関わるシスエレメントは、プロモータ領域、すなわち-1b〜-100bの間、-100b〜-194bの間、および-194b〜-252bの間の3ヶ所に局在することがわかった。さらに、第1イントロン内の229b配列がプロモーター活性を非常に強く促進するシスエレメントであることも判明した。これらのエレメントは種の違いを越えて働くこともわかった。 (2)Gストリング結合蛋白質の単離。Ars遺伝子はその上流及び第1イントロンに多数のGストリング配列をもち、Gストロングに特異的に結合する蛋白質をゲルシフトアッセイによってウニ胚細胞核から検出している。先年度までの研究で、サウスウエスタン法によってGストリング結合蛋白質のcDNAクローンを4種得ていたので、これらの塩基配列を決定した。その結果、cDNAはいずれもGAリッチであり、酸性アミノ酸-塩基性アミノ酸の反復配列があった。新しいGストリング結合蛋白質であると思われる。 (3)Ars蛋白質の形態形成における役割。ArsのcDNAを用いた大腸菌系に産生させたArsタンパク質から抗体を作製し、ウニ胚を免疫組織化学染色したところ、原腸胚までは胚の全外表層にArsが検出されたがプルテウス幼生では反口外胚葉部域の表層にのみ局在した。どの発生段階でも胚表層に分泌されたArsは酵素活性を示さない。プリズム胚からプルテウス幼生への形態変化は反口外胚葉が伸長する方向に起こるので、Arsは胚ECM成分の一つとしてプルテウス幼生形態の形成にに関与しているらしい。
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