ミサキマメイタボヤは分化多能性上皮組織をもち、出芽した個体のほとんどの組織や器官はこの多能性組織(囲鰓腔上皮)から再構築される。このような再生システムを形態調節という。これまでの研究で、内在性レチノイン酸が間充織細胞を介してこの形態調節を駆動することが分かった。本研究では間充織細胞で発動する核内レセプターと形態調節因子を探索した。 脊椎動物ではレチノイン酸がレチノイン酸レセプター(RAR)を介してゲノムの転写制御を行なっている。動物種を越えてよく保存されているRARのDNA結合領域(zincfinger)に基づいてプライマーをデザインし、ホヤcDNAライブラリーDNAを鋳型としたPCRによって、169bpのcDNA断片をクローニングした。得られたcDNAの塩基配列から予想されるアミノ酸配列は、これまで脊椎動物で知られているどのRARとも80%以上の類似性を示した。また、RT-PCRの結果はこの遺伝子が芽体で特異的に発現していることを示唆した。脊椎動物以外でRARが発見されたのは今回が初めてである。 レチノイン酸は間充織細胞のプロテアーゼ分泌を促進することが分かった。トリプシンは囲鰓腔上皮の脱分化誘導活性を示した。一方、アミノペプチダーゼは囲鰓腔上皮の細胞増殖を促進した。40Kと45Kのサブユニット構造をもち、その細胞増殖作用は抗45Kモノクローナル抗体によって中和された。酵素抗体法による免疫染色では、45Kは間充織細胞に存在した。囲鰓腔上皮の脱分化と細胞分裂開始は出芽ホヤの形態調節にとって必須である。これらを促進するプロテアーゼは、従って、真の分化転換因子であることが強く示唆された。
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