神経回路網形成の基礎過程を明らかにすることを目的とし、比較的構成が単純なショウジョウバエの神経-筋結合をモデル系として、エンハンサー・タラップ法を用い、新しい神経認識候補分子のクローニングを行った。エンハンサー・トラップ株、AN34は、体壁の筋肉を構成する30本の筋肉繊維(1番-30番)のうち1本(18番)においてのみ強くレポーター遺伝子(beta-galactosidase)を発現している。また中枢神経系内の一部の神経細胞においても発現が見られた。レポーター遺伝子を含むP因子が挿入された近傍のジェノミックDNAをplasmidresucue法により単離し、さらにcDNAをクローニングした。得られたcDNAについてRNAin situhybridzationを行ったところ、レポーター遺伝子と同じ神経、筋肉細胞で発現していることが確認された。得られたcDNAについて塩基配列を決定した結果、AN34は、シグナルペプチドをもつ約600アミノ酸から成る蛋白質であることがわかった。ホモロジー検索によりこの分子は、thrombospondin type Irepeat(TSR)を1つもち、さらにこれ以外に2カ所、脊椎動物のF-spondinと高い相同性を持つ領域があることが分かった。F-spondinは、floor plateで特異的に発現する分泌蛋白質で、in vitroにおいて神経繊維伸長を促進することが示されている。以上の結果から、AN34は特定の筋肉から分泌されることにより、運動ニューロンの誘引、標的認識に関与している可能性が高い。今後ショウジョウバエの発達した分子遺伝学的を利用しその機能を調べることにより、神経回路網形成のメカニズムの理解に貢献できるものと期待している。
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