本研究ではヨシを中心とした湿地を創出する技術を確立するための基礎的な検討として、ヨシ湿地が自然に形成されている沿岸域(東京湾小櫃川河口および島根県神西湖)を対象にしてヨシ湿地を維持していくための環境条件を明らかにすることを目的とし、汽水域でヨシ原が成立可能となる環境条件を特にヨシの生育を疎外する因子である塩分濃度や栄養塩濃度を中心に調査研究を行い、また同時に室内実験によるヨシの発芽特性を調べ、調査結果との比較評価を行った。得られた結果は次の通り。 (1)東京湾小櫃川河口域のヨシ湿地土壌間隙水の塩分濃度は気象条件などでかなり変動が激しいが、全体的傾向として土壌中の水のほうが表面水より塩分濃度が低く、かつ深部では短期的な時間変化はほとんどなかった。そのため、深いほうが塩分が低くなる場合もあった。ヨシ湿地の成立には土中塩分濃度及び水位が重要であり、塩分濃度については平均して1.5%程度以下が望ましいことがわかった。また、湿地土壌間隙水中の栄養塩濃度が高くなるとヨシの現存量が増加する傾向が認められた。 (2)汽水湖である神西湖では、小櫃川河口域と同様に、ヨシの現存量と間隙水中のアンモニア濃度と高い正の相関関係が、またヨシの現存量と間隙水質中の塩分濃度と負の相関関係が認められた。しかしながら、含水比、有機物含有量、粒度とヨシ現存量との関係は認められなかった。 (3)淡水産および沿岸海域産ヨシの種子との間に発芽率の差は認められなかったが、塩分濃度に大きく影響を受けた。塩分濃度が高くなるにつれ、発芽率は急激に低下し、1.5%以下では発芽率は5%程度になった。
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