研究概要 |
Slc:ICRマウスを午後6時から午前6時までの照明(昼夜逆転)条件で飼育した.朝9時に雌雄同居させ,午後6時に交尾を確認したものについて,正午を受精すなわち妊娠0日とみなした.妊娠8.0日の胚を培養系に移して0.05〜2.0Gyのγ線またはX線照射を行った.γ線源はコバルト60,0.4Gy/min,X線は140kVp,5mA,0.5mm Al+0.5mm Cuフィルター,4rpmターンンテーブル,104mGy/min;0.05Gy照射には21mGy/minももちいた.照射1〜6時間後に胚の細胞をクエン酸ナトリウム液中で解離し,細胞解析装置をもちいて細胞周期の変化を検索し,FITC標識抗体をもちいてサイクリンBの増減を観察した.熱ショック蛋白質HSP70の時間的増減を,FITC標識抗体をもちいて検索した後,線量依存性についてイムノブロットによって検索した. 1Gy照射による急性変化として,細胞周期のG_2+M期の遅延がみられたが,4-6時間後には回復した.照射1,2時間後にはサイクリンBの増加がみられたが6時間後には対照と同程度にもどった.放射線はサイクリンBの蛋白量には影響を与えないようで,G_2+M期にある細胞集団の増加によって組織中のサイクリンBが増加したと思われる.いっぽうHSP70は照射1時間から4時間後まで増加がみられ,6時間後も維持された. HSP70の誘導には線量依存性がみられたが,0.05Gyの低線量でおも無処置群より増加していたので,これによって後の高線量に対する抵抗性が獲得されるか否か検討した.妊娠8.0日の2時間前,午前10時に母体に0.05Gy前照射し,4時間後の午後2時に0.5Gyまたは1.0Gy照射した.妊娠18日に胎仔の神経管奇形を観察し,0.5Gy,0.55Gyまたは1.0Gy単回照射の群と比較した.図に結果を示したが,0.05Gy前照射による抵抗性獲得はみられず,むしろ線量の相加的効果が現れた. 少量の放射線前照射により,in vitoでもin vivoでも細胞に放射線抵抗性ができることは,染色体傷害の観察によって示された(1,2).胎児の発生に及ぼす影響の観察では,高い線量を分割して照射した実験しかないが,単回照射と比べて影響が軽減されたもの(3),差がないもの(4,5),返って増強されたもの(6)など結果は一致しない.さらに胎児の放射線適応応答の有無について研究が必要であろう.
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