本研究のゴールは、ジェミニウイルスと宿主植物(ヒヨドリバナ)が分子レベルで共進化していることを実証することである。 ジェミニウイルスは植物ウイルスとしては例外的なDNAウイルスである。突然変異体に関する研究から、ウイルスDNAがコードしている6つのタンパク質のうち主として複製タンパク質が宿主の幅を決めていると考えられている。そこで、このタンパク質の遺伝子DNAを特異的に増幅するプライマーを設計し、その分子進化パターンの比較を試みた。 ジェミニウイルスの一種TLCVの感染による特徴的な病斑をあらわしたヒヨドリバナを福岡県、佐賀県、神奈川県で採集し、病斑を持つ葉から全DNAを抽出し、精製後、上記のプライマーで約570塩基対のDNA断片を増幅し、その塩基配列を決定した。横浜市から採集した1個体の宿主植物からは、3つの異なるDNA断片が増幅された。これまでに決定した8つのクローンの系統関係を、既知の4種のジェミニウイルスを外群として、最節約法で推定した結果から、ヒヨドリバナに感染するジェミニウイルスは大きく2つの系統に分化しており、2つの系統のウイルスがしばしば共感染することがわかった。一方の系統には、病斑から区別されていたTYLCVが内群として含まれた。このウイルスはイスラエル産の植物から単離されたものであり、2つの系統のうち少なくとも一方は国外にも広く分布することがわかった。この結果から、ジェミニウイルスはきわめて分散力が大きいことが示唆される。 2つの系統ら得られた配列の間で同義・異議置換率を推定し、20アミノ酸ごとに平均してウインドウ解析を行った。その結果、同義・異議置換率がほぼ等しくなる場所が2ヵ所あることがわかった。これらの場所では、同義置換率が相対的に低下しており、何らかの自然選択が作用したフットプリントである可能性が示唆された。
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