本研究は、脊索動物がどのような動物に起源しどのような進化の道筋を経て生まれてきたのかを分子系統学的に解析するとともに、脊索動物を特徴づける最も重要な形質である脊索に着目し、この器官の分化に関与する遺伝子の構造と機能を分子進化学的に研究することを目的とし、本年度は次のような成果が得られた。 1.後口動物の分子系統学的研究:まず、18SrDNAの塩基配列の比較に基づいて後口動物各群の系統・類縁関係を検討したところ、従来この仲間に属すると考えられていた毛顎動物(ヤムシ)はこのグループには属さないこと、従って、脊索動物の進化を考えるには、棘皮動物、半索動物そして脊索動物を対象にすればよいこと、また脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物は頭索類であること、などが示唆された。 2.脊索特異的遺伝子の解析:1990年になってクローニングされたマウスのT遺伝子が脊索の分化に深く関与していることが示されている。T遺伝子のホモログはその後カエルやゼブラフィシュで単離されたが、これらの脊椎動物でのT遺伝子の発現は嚢胚形成前後から中胚葉で始まり、やがて脊索にその発現が残るというものであった。ホヤでは脊索の細胞系譜は完全に分かっている。そこでホヤのT遺伝子を単離しその発現を調べてみたところ、ホヤのT遺伝子は発生にともなって脊索細胞でのみ発現されることが分かった。この結果は尾索類の脊索と脊椎動物の脊索が相同であることを示す初めての分子的証拠であると同時に、T遺伝子の構造と機能の解析をとおして脊索動物への進化の道筋を解明できる可能性が生まれた。そこでさらに、棘皮動物(ウニ)および頭索類(ナメクジウオ)のT遺伝子のcDNAクローンの単離を試みた。現在までのところ、ウニのT遺伝子が二次間充織細胞で発現するという予備的結果を得ている。
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