生物にとり次世代を残すということは、基本的に重要な営みであり、このため動物は多種多様な繁殖行動を進化させている、われわれヒトを含む霊長類の中では、ヒトに最も近いヒト上科霊長類の多様な繁殖構造が特徴的である。そしてこれらの霊長類では、対体重あたりの睾丸重量や造精能力に大きな差異がある。さてこれらのオスの形質がY染色体に依存するとは言わないまでも、そのトリガーとなっていることは確かであろう。実際欠失により無精子症を引き起こすY染色体DNA領域等もヒトで同定されつつある。本研究においてはY染色体DNAを比較し、ヒト上科霊長類からヒトへの進化を明らかにするとともに、それらの性的二型、造精能力等の繁殖様式との関連をも考察することを目的とした。 YACクローンをもとに報告されているSequence-tagged sitesを参考にして、ヒトの配列による14組のPCRプライマーを合成し、ヒト上科霊長類での増幅の有無を試みた。SRY(睾丸決定因子)やZFX/ZFYのよにヒトからニホンザルまで増幅される領域、DYZ1のようにヒトのみが増幅される領域等、Y染色体上のそれぞれの領域の異なる速度の進化が推測された。 そこで比較的保存されている遺伝子の配列を霊長類全体で調べることを考えた。X、Y染色体の相同部分に存在してはいるが、XとY染色体間でのキアズマを形成しないZFXおよびZFYを選び、塩基配列をPCR直接法により決定した。これはXとY染色体の塩基置換速度の比較も目的とした。メスの個体のDNAから増幅されるのはZFXのみであるので、まずメスについてその塩基配列を決定した。ついでオス個体のDNAから増幅し、得たクローンを複数個選び塩基配列を決定しZFXでないものをZFXとした。予測されたことではあるがZFY間の変異がZFXに比べ大きい。それぞれの科内でクラスターを作ること、南アメリカのオマキザル間の差異が大きく長い分化の歴史が推測されること等が明らかになった。
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