研究概要 |
心筋の収縮・弛緩は細胞内Caイオン濃度変化により制御されているが、収縮に直接関与しているクロスブリッジの挙動により、細胞内Caイオン濃度が影響されることが示唆されている。本研究では、フェレットの乳頭筋にCa指示薬である、エクオリンを適用して、細胞内Caイオン濃度と張力を同時記録し、初期長および、収縮中の筋長変化による細胞内Caイオン濃度変化のメカニズムの解明を計画した。筋の初期長をLmaxより短縮させると、発生張力は著しく低下したが、Ca信号のピークに変化はみられなかった。しかし、Ca信号の下降相が軽度に延長した。標本に単収縮をおこさせて、単収縮の経過中に筋長を急速にLmaxから8%ほど、短縮させると、Ca信号が一過性に増高した(extra-Ca)。刺激から筋長変化をおこなう時間を変えると、extra-Caのピークは筋長変化分よりも、筋長変化による張力変化分に依存して変化した。また、細胞外液のCaイオン濃度を種々に変化させ、各Caイオンの濃度の溶液中で筋長を短縮させると、extra-Caは筋長変化をおこなう直前の細胞内Caイオン濃度に依存して変化した。即ち、extra-Caは張力変化分と細胞内Caイオン濃度に依存して変化した。しかし、筋を伸張しても細胞内Caイオン濃度には顕著な変化はみられなかった。標本に2,3-butanedione monoxime(BDM)を作用させて、張力を抑制して筋長変化(短縮、伸長)をあたえても細胞内Caイオン濃度には変化がみられなかった。また、溶液中の炭酸ガス濃度を増加しpHを低下させ、Ca感受性を低下させた条件下で筋の短縮をおこなうと、コントロールに比較してextra-Caは減少した。これらの結果から、筋長変化によりクロスブリッジの結合・解離が変化すると、Caイオンに対するトロポニンCの親和性が変化して細胞内Caイオン濃度に変化が現れるものと考えられる。このように、クロスブリッジ依存性にトロポニンCのCa結合が変化するメカニズムは、心筋の生理的な張力発生に重要な役割を果しているものと考えられる。
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