ヒト骨組織及び骨髄における、造血幹細胞抑制因子(Stem cell Inhibitor)であるLD78の局在を免疫組織化学的に検討したところ、骨髄特にエオジン好性骨髄球に強い染色性が認められた。骨基質には全く染色性は認められなかったが、骨芽細胞に染色性が認められた。そこでLD78遺伝子のヒト骨組織における発現をin situ ハイブリダイゼーション法を用いて検討した。T7及びT3プロモーターを有するプラスミドBlue-scriptに組込まれたLD78・DNAを用いて^<35>S標識RNAプローブを作成した。甲状腺機能亢進症あるいは変形性股関節症の患者より得た骨髄を含む骨片を蟻酸脱灰後パラフィンに包埋し、4μm切片を作成した。アンチセンス、センスプローブを用いハブリダイゼーションを行ないオートラジオグラフィーを行なった。結果、エオジン好性骨髄球のみならず他の骨髄細胞にも発現が認められた。骨細胞には発現は認められなかったが骨芽細胞にはLD78の発現が認められた。破骨細胞により形成された吸収窩には新たなる骨芽細胞が誘導され吸収窩を埋めて(新生骨により)いくのであるが、そのような吸収窩に誘導された骨芽細胞にも高い発現が認められた。ところで破骨細胞分化系においてLD78タンパクが破骨細胞の分化(形成)を促進する活性を有することを見出しており、LD78タンパクが、骨芽細胞による破骨細胞分化誘導因子のひとつである可能性が示唆された。また、本研究により、ヒトStem cell InhibitorであるLD78が骨芽細胞により恒常的に分泌されていることが見出され、骨組織による造血制御のひとつの局面を浮き彫りにすることができた。現在、LD78の属するケモカインファミリーの他のタンパクについても詳細な検討を行なっている。
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