赤血球は最終分化段階で細胞核を失い、主として解糖系にるエネルギー産生で約120日間の寿命を全うするが、骨髄における造血幹細胞から成熟赤血球への分化の過程で解糖系律速酵素のピルビン酸キナーゼ(PK)のアイソザイムは赤血球系細胞でのみ未分化(M2)型から赤血球(R)型へと変換する。今年度われわれはマウスフレンド白血病(MEL)細胞を用いて、アイソザイム変換機構について解析を試みた。MEL細胞を1.4%ジメチルスルフォキサイドにより赤血球系細胞への分化を誘導すると、96時間後にはR型PK蛋白量の増加、M2型の減少をみることがイムノブロット解析で明らかになった。次にレポーター遺伝子にCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子を用いて、ヒトR・M型PKプロモーター活性の変化を検討したところ、R型は分化誘導後48時間で約3倍に転写レベルが上昇することを見出した。このR型PKプロモーター領域には赤血球特異的転写因子GATA-1の結合配列が4箇所、CACCC配列が2箇所存在し、GATAファミリーやEKLFなどの転写因子の協調作用により、R型PKの分化段階に伴う発現量が調節されていることが示唆された。この発現ベクターにL/R型PK遺伝子の3′領域に存在する転写因子NF-E2の結合配列を挿入し、R型PK転写活性に対する作用を検討したが、相加的な作用は認められなかった。この結果から、1)NF-E2は赤血球系への分化のコミットメントには関与するが、分化に伴う遺伝子発現量の増加には関与していない、2)NF-E2と同じDNA配列を認識する別の転写因子がPK遺伝子の赤血球特異的転写調節に関与している、の二つの可能性が考えられ、今後の検討が必要と考えられた。
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