本研究は、環境化学物質によるDNAの構造変化・付加体をヒト組織中に直接検出することにより、ヒト発癌に実際に関与する要因とその相対的重要性を明らかにしようというものである。今年度は、喫煙者および長期禁煙者の肺組織各15例についてO-アルキル付加体の定量を行った。その結果、O4-エチルチミン量の喫煙者の平均値が長期禁煙者の約2倍でその差は有意であった。O6-メチルグアニンとO4-メチルチミンのレベルには有意差は認められなかった。O4-エチルチミン量はヒト細胞では修復されにくいことが知られており、喫煙中に含まれるエチル化剤によって形成されたO4-エチルチミンが組織中に残存していたものと考えられる。O6-メチルグアニンやO4-メチルチミンは比較的速やかに修復除去されるため、有意差を検出し得なかったのであろう。 DNA付加体定量による分子疫学的解析をいかに強力に推進し得るかは、その定量法に依るところが多い。我々が開発し現在解析に用いているPREPI法は感度、特異性ともに非常に高いが、手順が複雑で習熟に困難を伴う上、実験者のアイソトープへの暴露が深刻な問題である。従って、その特長を損なうことなく手技を簡便化して、より多くの試料を一度に取り扱えるようにするとともに脱アイソトープ化を試みた。DNA水解物をHPLCによって前分画し、特異抗体によるELISAを行ったところ、PREPI法に匹敵する感度を得ることができた。現在さらにその方法の改良に取り組んでいる。
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