マウス転写因子PEBP2は、DNA結合活性を持つαおよび非DNA結合性のβからなるヘテロ二量体蛋白である。αは既知のDNA結合モチーフを持たないが、ヒト急性骨髄性白血病遺伝子AML1、及びショウジョウバエ分節化遺伝子runtと極めて高い相同性を持つことが判明した。我々はαの相同領域(Runtドメイン)が担う機能を明らかにするために一連のα欠損体を作成し、ゲルシフト、及び蛋白-蛋白親和性クロマトグラフィーによる解析を行った。この結果αのDNA結合能、及びβとのヘテロ二量体形成能は、ともにRuntドメインに含まれることが示された。一方βについても同様の解析を行い、そのヘテロ二量体形成能は、N末端側135アミノ酸の領域に存在することを明らかにした。次いで、Runtドメインの機能を更に詳細に解析するためにランダム変異導入を行い、様々な機能変化を起こした変異体を分離した。特に興味深いものとして124番目のシステイン残基がセリン残基に置換した変異はDNA結合活性が著しく上昇していた。野生型RuntドメインのDNA結合活性はDTT濃度に比例して上昇するのに対し、この変異はDTT非依存性となっていることから、PEBP2はNF_kBやFOS/JUNと同様にレドックス制御による活性調節を受ける可能性が示唆された。さらに、PEBP2αサブユニットの相手であるβサブユニットとのヘテロ二量体形成能が低下するような変異がアミノ酸番号150付近に集中して得られた。これらの点変異を全長のαサブユニットに導入したところ、その転写活性化能が野性型より低下したことから、βサブユニットは効率よい転写活性化に重要な働きをしていることが示された。今後は個々の変異についてのさらに詳細な解析をin vitroとin vivoの両方から進めていく予定である。
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