新しくデザインさたλファージ型発現ベクターを用いてヒト線維芽細胞(MRC-5)cDNAライブラリーを作成し、これをv-Ki-rasでトランスフォームしたNIH3T3細胞株″DT″にトランスフェクト後、培養シャーレへの接着性が増した11クローンの変異細胞(フラット・リバータント)を単離した。それらの細胞より回収された5種のcDNAの内、CT192と名付けられたcDNAにリバータント誘導活性が認められ、その構造解析を進めた結果、新規の蛋白質をコードしている事が分かり、これをRECKと名付けた、RECK蛋白質は596アミノ酸残基からなり、その中央部に、一部のセリン・プロテアーゼ・インヒビターに共通に見られる「Kazalの配列」と呼ばれる構造を持つ。RECK遺伝子はヒトの種々の臓器で発現されているが、多くのヒト腫瘍由来細胞株において著しい発現低下が観察された。また興味深いことに、種々のがん遺伝子を導入したNIH3T3細胞においても、一様にRECK遺伝子の著しい発現低下が観察された。RECKcDNAを種々の腫瘍細胞株に導入した強制発現させると、寒天培地中での増殖抑制、形質の扁平化、浸潤能の抑制などが観察された。また、RECK遺伝子はヒト染色体9p12-13上に位置することが示され、現在その造異常とヒト疾患との関連性についても検討を加えつつある。 なお今年度は、マウス中枢神経系の発生に伴って発現してくるNedd遺伝子群の生物活性の検討も行い、ヒトでは第12染色体長腕に存在するNedd1遺伝子に神経芽腫に対する増殖抑制活性が、またNedd2遺伝子にはアポトーシス誘導活性が有ることをつきとめた。さらに、neo及びヘルペスウイルスTK遺伝子を持ったレトロウイルス・ベクターを作成し、動物細胞における変異及び染色体不安定化の検出系として有用であることを示した。
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