研究概要 |
酵母における細胞増殖と分化(減数分裂)の接点における分子制御 機構を担う因子を単離する目的で分裂酵母のスタート近傍の変異株であるcdc2およびcdc10変異株を機能相補する多コピー抑圧遺伝子を幾つかクローン化した。それらのうちcdc10変異株の多コピー抑圧遺伝子であるrepl,HAC1と名付けた遺伝子はともに5'転写制御領域に減数分裂遺伝子に特有なモチーフを持ち、それに支配されて減数分裂過程に入ると転写が激増するいわゆる減数分裂制御遺伝子であることがわかった。Replは減数分裂前DNA合成(premeiotic DNA synthesis)に関わるZn-フィンガーを持つ転写因子でありrepl破壊株は前減数分裂DNA合成の進行が阻害されて減数分裂を行うことができない。HAC1はCREBに類似するbZIP構造を持つ230アミノ酸よりなる転写因子であった。そのアミノ酸配列はbZIP部分においてヒトのCREB(cAMP response element)に最も良く類似していたのでこの遺伝子をHAC1(Homologue of ATF/CREB)と命名した。GST-Hacl融合蛋白質を作製し、ゲルシフトアッセイを行うことでHaclが実際にCREモチーフを持つオリゴヌクレオチドに特異的に結合することを証明できた。その破壊株は栄養増殖には影響ないがカフェイン感受性を示し、それはPDE1遺伝子の外部からの導入により抑圧された。またcdc2変異株の多コピー抑圧遺伝子としてRNA(単鎖DNA)結合蛋白質が(Scr2,Scr3)みつかったが、それらはc-myc遺伝子の転写を制御する転写制御因子と同一のものであった。本研究によって当初ねらっていた細胞増殖と分化(減数分裂)の接点に存在して制御している可能性のある遺伝子が2種類(repl,HAC1)単離できた。Scr2,Scr3の機能はS期進行(増殖)制御因子としての機能を持つ可能性が考えられる。今後これらが実際に分子スイッチとして働いているか否かを調べて行きたい。
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