研究概要 |
galactosyltransferase associated with tumor(GAT)は悪性腫瘍、中でも卵巣癌でその血清値が高値を示すので、癌細胞におけるGATの放出メカニズムは、通常のGolgiタンパクであるβ1,4-galactosyltransferase(GalT)のそれと異なると推測される。そこで、本酵素がGolgi装置に局在保持されるためには同分子の膜貫通部分が重要であるという知見と、癌細胞ではGATという通常とは異なる形で放出されるという知見から本年度はGalTとGATの細胞内の局在様式、特にGolgi装置を中心とした局在の差異について検討し、各種培養癌細胞の本酵素の放出機序について解明することを目的とした。 GalTに対するモノクローナル抗体MAb8628とMAb8513を用いたdouble determinant enzyme immunoassayによってGATの測定系は既に確立している。MAb8628は通常のGalTとGATの両者を認識するのに対し、MAb8513はGATのみを認識する。そこで、卵巣癌株を始めとする各種培養細胞を用いて培養上清中のGAT及び総GalT活性を測定するとともにMAb8628とMAb8513を用いて免疫組織化学的染色を行ったところ、MAb8628反応は核周囲の網状構造に陽性であり検索した細胞間では大きな差異は認められなかったが、MAb8513の陽性部位は細胞質内に顆粒状に認められ、培養上清中のGAT値が高い細胞ではその反応強度は弱くなる傾向を示した。電顕レベルの検索によればMAb8626の反応部位はtrans Golgiであり、一方、MAb8513反応はMAb8628の場合とは異なり細胞質の顆粒様構造に陽性であった。MAb8513の結合部位はGolgi装置に特異的に反応するMAb8628と異なるので、GATを特異的に認識していると考えられるMAb8513は細胞内に存在する膜結合型酵素と培養上清中の可溶型酵素では反応性が異なることが示唆された。さらにGATは癌細胞で比較的特異的に産生されるので、癌細胞の放出するMAb8513結合酵素の特性についてWestern blot等による検索が必要であると考えられた。
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