我々は糖蛋白質糖鎖の微量構造解析技術法を確立し、個々の癌についてその産生する特定の糖蛋白質を選んで正常細胞の産生するものと糖鎖構造を比較検討し、えられた知見を応用して新しい癌診断法を開発する研究を進めてきた。解明した糖鎖の癌性変化を的確に検出する手段としては、糖結合蛋白質であるレクチンや糖鎖に対する抗体が考えられる。ところが、糖鎖に対する抗体は一般に抗原親和性が弱く、たとえ有用な抗体が得られたとしてもそれらを早期診断マーカーなど実用的に利用してゆくうえで大きな問題となっている。そこで、本研究では抗糖鎖抗体の抗原結合部位へ糖鎖を新たに導入することにより抗体の機能改変を試み、抗原親和性上昇の可能性について探った。抗糖鎖抗体としてデキストランに対する単クローン抗体をモデルとして研究を実施した。アミノ酸部位指定変異法を用いて抗デキストラン抗体の3つある相補性決定領域のうち2番目の領域(CDR2)に遺伝子工学的に糖鎖を導入し、付加した糖鎖の構造及び抗原との親和性に対する影響を調べた。その結果、54番目に導入すると抗原との結合は阻害された。ところが、60番目に導入すると抗原との親和性は約3倍高められ、58番目に導入すると何と10倍も高まった。一方、糖鎖は54番目、58番目ともに複合型糖鎖であったが、60番目には高マンノース型糖鎖が結合していた。以上の結果、CDR2への糖鎖導入はその導入位置によって糖鎖構造及び抗原親和性に及ぼす影響は異なることが判明した。今後、他のCDR領域への糖鎖導入効果や他の抗糖鎖抗体についても検討を加えてゆく予定である。本研究により糖鎖による抗体機能改変の可能性が示され、癌関連抗糖鎖抗体の癌早期診断、イメージング、癌治療など利用範囲が一段と広められたと結論づけられる。
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