癌細胞において糖鎖の生合成異常はしばしば見られる現象である。O-結合型糖鎖の伸張不全によるTn抗原の発現もその一つで診断上の価値が認められているが、免疫担当細胞を含む宿主細胞との相互作用において、癌細胞上のTn抗原がどんな意味を持つのかは不明であった。マウスマストサイトーマP815細胞をbenzyl-GalNAc存在下培養し、O-結合型糖鎖の伸張を阻害しTn抗原の発現を増加させると、糖鎖認識分子であるマクロファージレクチン(MMGL)を介してマクロファージに対するaccessibilityが高まることがわかった。しかし、ln vitroでのマクロファージによる細胞障害性試験では、必ずしもbenzyl-GalNAc処理P815細胞が高い感受性を示さなかった。その原因として、アッセイ時にO-結合型糖鎖の伸張が生合成により回復し、benzyl-GalNAc処理の効果が持続しないためと考えられた。そこで、ビオチン化した組み替え型MMGL(rML)を用いて細胞をセルソーターで繰り返し分離し、Tn抗原の発現量がより安定な細胞株の樹立を試みた。すなわち、マウス卵巣癌OV2944-HM-1細胞を用いて、rMLに対する結合部位の多い亜株と少ない亜株の樹立に成功した。また、亜株間で、固相化したrMLへの細胞接着に差があることを確認した。今後、これらの細胞の間で、マクロファージに対する感受性やin vivoにおける転移能に違いがあるかどうかを調べる予定である。 ところで、OV2944-HM-1細胞の肺転移結節においては、MMGLを発現したマクロファージが多数浸潤していることを我々の作製したモノクローナル抗体を用いて免疫組織学的に明らかにした。一方、MMGLのcDNAをマウスT細胞株CTLL-2にトランスフェクトした細胞CTLL-MLを作製し、MMGLの発現をフローサイトメトリーおよびイムノブロットにより確認した。OV2944-HM-1細胞の肺転移結節を有するマウスにCTL-MLを蛍光標識後投与すると、ベクターのみのトランスフェクタントに比べて、転移結節内への移行性が高いことが判明し、マクロファージの腫瘍内浸潤にMMGLが関与している可能性が示された。
|