研究概要 |
癌化シグナルによる細胞周期開始機構の一端が明らかになった。従来よりNRKラット線維芽細胞変異株の解析から我々は、一般的に受け入れられている仮説とは異なり、癌化のシグナルと通常の増殖シグナルとは質的に異なることを示唆してきた。今回、これを分子レベルで実証する知見を得た。NRK細胞をG1で停止し、血清で刺激した場合抗Cdk4抗体の微少注入で細胞のS期開始が阻止される。しかし、発がん(足場非依存性S期開始)を誘導するEGF+TGF-b刺激では、抗Cdk4抗体では阻止されず、抗Cdk6抗体とともに微少注入したときのみS期開始が阻止された。In Vitoキナーゼ活性の測定の結果、いずれの刺激でもCdk4,Cdk6いずれも活性化されることがわかった。またサイクリン依存性キナーゼインヒビターのp16,p18,p21,p27の発現量を調べたが、いずれの刺激でも変化なかった。また、Cdk4,Cdk6の細胞内局在を免疫染色法と細胞分画とウエスタンブロットによって調べたが、いずれの刺激でも同様にだいぶぶん細胞質に局在していた。このことは、発がん刺激によって、Cdk6の新規標的が誘導されそれが発がんに係わっていることを示唆する。この因子は、従来Cdk4,Cdk6キナーゼの標的とされているRbでは説明がつかない。この因子の同定が発がん機構の解明の鍵となると考えられる。 一方、分裂酵母の分化と増殖の切り替えに係わる新規遺伝子およびストレス適応に必須な新規細胞周期制御因子の単離を行った。
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