動物細胞において、癌遺伝子Rasは受容体型チロシンキナーゼの下流で、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)であるRafとMEKKを活性化し、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)-MAPキナーゼ(MAPK)の活性化カスケードを介して、細胞の増殖・分化および癌化を制御している。我々は、酵母の情報伝達系の一つである三量体G蛋白質の下流で働くSTE11(MEKK相同)-STE7(MAPKK相同)-FUS3(MAPK相同)のカスケードをモデル系として、STE7の活性化型変異(STE7-P368)を分離し解析を行なった。その結果、STE7-P368が動物細胞の活性化型Rafキナーゼにより活性化されることが明らかになった。この性質を利用して、RasによるRafキナーゼの活性化を、酵母細胞を用いたin vivoの系でassayすることが可能となった。この結果は、酵母細胞内にRasによるRafキナーゼの活性化に関与する因子が存在することを示唆している。そこで、この因子を分離することを試みた結果、これが14-3-3蛋白質であることが明らかになった。実際に、14-3-3がRafキナーゼのN末端側の制御部位に結合すること、酵母細胞から調製したRafキナーゼをin vitroで活性化すること、Xenopusのcrude extractsでMAPKを活性化することが明らかになった。従って、14-3-3蛋白質はRasによるRafキナーゼの活性化に関与する因子と考えられる。さらに、この酵母におけるをMAPKカスケードをモデル系として、MEKKの活性化因子の同定、新しいMAPKKKの分離などが可能となった。
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