がん抑制遺伝子の作用機作

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06283215
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 秋山 徹 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (70150745)
• キーワード: がん抑制遺伝子 / 細胞周期 / 大腸がん / APC / G1-S移行 / Wilms腫瘍 / WT1 / Cyclin-CDR

研究概要

(1)大腸がんのがん抑制遺伝子APCが細胞周期のG1-S移行を阻害する活性をもつことを見いだしその機構を解析した。まず酵母を用いたtwo-hybrid systemによりAPC蛋白質と結合する細胞蛋白質のcDNAを単離しDrosophilaのがん抑制遺伝子dlgのヒトホモログであることを見いだした。APC遺伝子と同様にdlg遺伝子もG1期に作用して細胞周期のS期への進行を阻害する活性をもっていた。さらに、dlg遺伝子産物に結合する蛋白質をコードする新規遺伝子を単離し解析をすすめた。また、APC蛋白質およびDlg蛋白質は主にセリン残基がリン酸化されており特にM期にリン酸化が亢進することを見いだした。
(2)大腸がんで変異の見られる遺伝子として単離されたMCC遺伝子の産物を同定しさらにC1-S移行を抑制する活性をもつことを見いだした。
(3)Wilms腫瘍の癌抑制遺伝子WT1の産物と複合体をつくる蛋白質をコードする新規遺伝子を単離した。また、WT1遺伝子の異常発現している白血病細胞にantisense oligonucleotideを作用させると増殖が阻害されることが見いだされた。zinc finger2および3の欠失したWT1のvariantsが白血病で発現の異常をおこしていること、それぞれが特異的な塩基配列に結合する活性をもつことを明らかにした。
(4)褐色細胞腫PC12の分化にともなってCDK2の活性が低下すること、この活性低下が分化に必須であることを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] T.Kudou et al.: "G1 phase arrest induced by Wilms tumor protein WT1 is abrogated by cyclin/CDK." Proc.Natl.Acad.Sci.USA.92. 4517-4521 (1995)
• [文献書誌] I.Miyashiro et al.: "Subcellular localization of the APC protein:Immunoelectron microscopic study of the association of the APC protein with catenin." Oncogene.11. 89-96 (1995)
• [文献書誌] Y.Dobashi et al.: "Constitutive overexpression of Cdk2 inhibits neuronal differentiation of rat pheochromocytoma PC12 cells." J.Biol.Chem.270. 23031-23037 (1995)
• [文献書誌] G-H,Baeg, et al.: "The tumor suppressor gene product APC blocks cell cycle progression from the G0/G1 to S phase." EMBOJ. 14. 5618-5625 (1995)
• [文献書誌] A.Matsumine,et al.: "The MCC gene product regulates cell cycle transition from G0/G1 to S phase." J.Biol.Chem.(in press).
• [文献書誌] T.Yamagami,et al.: "Growth inhibition of human leukemic cells by WT1 antisense oligodeoxynucleotides:implications for the involvement of WT1 in leukemogenesis" Blood.(in press).
• [文献書誌] 秋山 徹: "癌抑制遺伝子の最前線" 横田 淳 秋山 徹, 158 (1995)
• [文献書誌] 秋山 徹: "転写のしくみと疾患" 村松 正寛, 163 (1996)