生体防御と癌化を制御する遺伝子群の研究

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06283217
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 谷口 維紹 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (50133616)
• 研究分担者: 田中 信之 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助教授 (80222115)
• キーワード: IL-2受容体 / シグナル伝達 / Pyk2 / NK細胞 / 骨髄微小環境 / IRFファミリー転写制御因子 / ウイルス感染 / IFN-α / β

研究概要

IL-2Rβ鎖の細胞質内部分のうち、Stat5やStat3を活性化するH領域を欠損するIL-2Rβ鎖トランスジーンをIL-2Rβ鎖欠損マウスに導入した結果、IL-2Rβ鎖欠損マウスにおいて見られたT細胞の自発的活性化や自己免疫様症状は正常化したが、ナチュラルキラー(NK)細胞や腸管上皮内γδ型T細胞(IEL)の分化異常は矯正されないことから、H領域は、IL-2Rβのin vivoにおける機能のうち、NK細胞やIELの分化に特異的に関与していることを明らかにした。また、IL-2の受容体のγ鎖を介したシグナル伝達機構の解析から、Pyk2キナーゼがJak3に会合し、IL-2刺激によって活性化されたJak3によって活性化されること、Pyk2がIL-2による細胞増殖に重要であることを発見した。
一方、インターフェロン(IFN)系の転写制御因子IRF-1欠損マウスでは機能的なNK細胞がみられない事を発見した。更に、IRF-1欠損骨髄細胞を野生型マウスに移植すると正常なNK細胞が生産される事、NK細胞分化に重要なIL-15遺伝子が直接IRF-1によって制御を受けていることを見出し、IRF-1がNK細胞の分化を促す骨髄中の微小環境の維持、成立に必須の因子であることを発見した。また、IFN-α/β遺伝子の発現制御におけるIRFファミリー転写因子の解析から、IRF-3がウイルス感染に伴ってリン酸化を受けて細胞質から核に移行し、IFN-β遺伝子を活性化する事、IRF-7の発現がウイルス感染及びIFN-β刺激に伴ってIRFファミリー因子p48依存性に誘導されること、IRF-7がウイルス感染に伴って細胞質から核に移行しIFN-α/β遺伝子の転写を活性化することを見出し、これらのIRFファミリー転写制御因子によってIFNの産生が相乗的に活性化される機構を明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Ogasawara,K.: "Requirement for IRF-1 in the microenvironment supporting development of natural killer cells." Nature. 391. 700-703 (1998)
• [文献書誌] Miyazaki,T.: "Pyk2 is a downstream mediator of the IL-2 receptor-coupled Jak signaling pathway." Genes & Development. 12. 770-775 (1998)
• [文献書誌] Fujii,H.: "Functional dissection of the cytoplasmic subregions of the IL-2 receptor βc chain in primary lymphocyte populations." EMBO Journal. 17. 6551-6557 (1998)
• [文献書誌] Tanaka,N.: "Type I interferons are essential mediators of apoptotic death in virally infected cells." Genes to Cells. 3. 29-37 (1998)
• [文献書誌] Sato,M.: "Involvement of the IRF family transcription factor IRF-3 in virus-induced activation of the IFN-β gene." FEBS Letters. 425. 112-116 (1998)
• [文献書誌] Sato,M.: "Positive feedback regulation of type I IFN genes by the IFN-inducible transcription factor IRF-7." FEBS Letters. 441. 106-110 (1998)
• [文献書誌] Liu,Z.J.: "A critical role for cyclin C in promotion of the hematopoietic cell cycle by cooperation with c-Myc." Molecullar and Cellular Biology. 18. 3445-3454 (1998)
• [文献書誌] Nozawa,H.: "Functionally inactivating point mutation in the tumor-suppressor IRF-1 gene identified in human gastric cancer." International Journal of Cancer. 77. 522-527 (1998)