がんの発生とその組織の変化には、胚発生期における転写制御機構が作用していることが多い。胚発生期における代表的な転写制御因子の幾つかの例について研究した。 1)δEF1は、δ-クリスタリン・エンハンサーの抑制因子として同定された、分子量12万の蛋白質で、N-末端側に3個、C-末端側に4個の、C2H2タイプのZnフィンガーをクラスターとして持っている。 δEF1はCACCTをコアとした塩基配列、特にE2-box(CACCTG)に結合する。δEF1が、bHLHによる転写活性化をE2-box特異的に競合的に抑制すること、また、δEF1が、以前から検出されていたE2-boxに特異的な抑制活性を説明するものであることを示した。マウス胚のなかでδEF1は、筋節、中枢神経系、神経堤、胸腺原基などでとくに強く発現されていた。個体の中でδEF1がどの組織のどの遺伝子と活性化因子を標的としているのかを明かにするために、δEF1突然変異体マウスを作成した。それらのマウスは、胸腺でTの細胞分化に異常を示した。 2)N-myc欠損マウスを用いた解析の結果、N-myc発現はニューロン分化促進因子を介して幹細胞をプレニューロンの段階にまで導くが、その後の最終的な分化にはN-mycの発現低下が必須であると結論された。N-myc欠損ES細胞とβ-ガラクトシダーゼ標識マウス胚とのキメラをつくりN-myc遺伝子の組織形成への関与を解析した。N-myc欠損細胞の欠陥が細胞自律的である場合と非自律的な場合とを区別できた。
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