がんの発生とその組織の変化には、胚発生期における転写制御機構が作用していることが多いという認識に立って、胚発生期における代表的な転写制御因子の幾つかの例について研究している。それらの転写制御因子としての特性の解明、転写制御因子欠損突然変異体マウスの作製、突然変異体マウスを用いた作用標的の解明、制御因子-作用標的系のがん組織における作動状況についての解析を順次行なっている。本年度は、特に原がん遺伝子の一つN-mycを中心として研究をすすめ、Mycファミリーの個々の作用とその特異性を明かにする研究の端緒を開いた。 1.多くの標的遺伝子組換えマウスで、その表現型の出現がマウスの遺伝的背景に依存することが知られている。本年度N-mycの欠損をC57B1/6系統に導入すると、これまでに観察されていた異常に加えて、眼の形成異常と脊髄脳室層の過形成が観察されるようになった。 2.N-mycとL-mycは機能的重複が示唆されていた。その発現の重複、L-myc欠損マウスが全く異常を示さないことなどが根拠になっていた。そこでN-myc、L-myc2重突然変異体を作製したところ、N-myc単独の突然変異体と全く差がなく、機能的重複は否定された。 3.N-myc欠損胚で発現が上昇する遺伝子として単離されたNdrl遺伝子を解析したところ、プロモーター上流側に、Myc:Max結合配列が多数存在し、またこのプロモーターはN-myc:Maxによって抑制された。
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