研究概要 |
32人の食道癌患者の種々の段階の106病変(異形成・早期癌・進行癌)における遺伝子異常を、マイクロサテライトマーカーを利用した染色体欠失を指標として解析し、3p,17pの癌抑制遺伝子の不活性化が異形成の段階ですでに起こっていることや9p,9qの癌抑制遺伝子の不活性化は癌化の段階で重要な役割をしていることなど、食道癌においても多段階的に遺伝子異常が蓄積されていることを明らかにした。また、種々の臓器の扁平上皮癌の発生に共通して関与していると考えられる第9染色体長腕の遺伝子については、数百kbの範囲まで癌抑制遺伝子の存在部位を限局化することができた。遺伝性癌の原因遺伝子のひとつであるMLH1遺伝子の変異を効率よく検索し発症前診断に応用するために、この遺伝子の全エキソンを1枚のゲルで解析するスクリーニング法を確立した。この方法によって全エキソンの変異の有無の検索を24時間以内に行うことが可能となった。さらに、リンパ節転移の有無を原発巣において認められる遺伝子異常を指標として遺伝子レベルで診断することの臨床的意義を調べるため、120例の病理組織学的にリンパ節転移陰性と診断された大腸癌患者についてレトロスペクティブに検討を行った。その結果、遺伝子診断はより正確な予後判定指標であり、術後の化学療法の適否を判断するための有用な指標になりうることが示唆された。また、抗p53抗体による免疫組織学的な検討の結果と遺伝子診断の結果との対比から、MASA法による解析によって生きた癌細胞のみならず、免疫細胞に呑食された癌細胞をも検出可能であることが示唆された。次に、p53蛋白の結合すると考えられるDNA断片を有するコスミドクローンを単離し、それらをもとに正常p53蛋白によって発現が誘導される2種類の新規の遺伝子の単離に成功した。
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