研究課題
総合研究(A)
高野山金剛峯寺蔵中尊寺経4296巻の調査については、昭和63年度・平成元年度の文部省科学研究費補助金による第一次調査時点で、1227巻分を終えていた。今回からの調査により、その後800余巻を加え、平成6年度末時点で、2132巻までの調査を終えることができた。調査の内容は、各巻の表紙絵、見返絵のモチーフと表現の記録、外題・首題・尾題の記録、各巻全紙および界高・界巾の計測、軸端の検討からなり、6×12フィルムによる表紙・巻首・巻末の撮影およびマイクロフィルムによる全巻撮影をともなっている。さらに必要に応じて赤外線フィルム撮影も行なった。そうした中で、下記のようないくつかの知見を得ることができた。(1)赤外線スコープにより、多くの宝塔型墨印、花押類をあらたに発見することができた。花押の種別は、第一次調査で発見されたものと同種もあるが、新たなものも含まれる。(2)第一次調査時点での調査巻における動員された絵師はおおよそ20人弱とみなされるが、今回ではさらに新しい絵師が加わっている。(3)五部大乗経を過ぎた付近からは、年紀を記した例が極端に少なくなり、五部大乗経とそれ以外ではなんらかの区分けのあることが知られる。(4)調査巻の順序は、正確ではないにしろ、おおむね制作された順にしたがって進行していると想定されるが、初期に登場した見返絵の絵師が、時間をおいて再登場する状況が観察される。(5)軸端の制作母体について、初期に制作された華厳経に予備的検討を加えた結果、絵師の分担状況とある程度重なることが判明した。来年度以降の本格的調査において、より具体的成果がのぞまれる。