研究課題
高野山金剛峯寺蔵中尊寺経4296巻の調査については、平成6年度末時点で2132巻までが調査済みであったが、今年度は300巻弱を加え2421巻までの調査を終えることができた。調査の内容は、各巻の表紙絵、見返絵のモチーフと表現の記録、外題・首題・尾題の記録、各巻全紙および界高・界巾の計測、軸端の検討からなり、6×12フィルムによる表紙・巻首・巻末の撮影およびマイクロフィルムによる全巻撮影をともなっている。さらに必要に応じて赤外線フィルム影響も行なった。そうした中で、下記のようないくつかの知見を得ることができた。(1)前年度同様、赤外線スコープにより、多くの宝塔型墨印、花押類をあらたに発見することができた。特に大丈夫論下巻は各紙ごとに花押と塔印があり、注目される。(2)見返絵の作風に関して、新しいタイプの筆者が少しずつ登場しているのを認めることができる。同時に中尊寺経制作の初期に登場していた筆者の最登場も確認できる。(3)見返絵の中に、諧謔味を帯びた人物表現が新しく発見された。絵巻物の人物表現にも通じるもので、中尊寺経制作に携わった絵師の系統を考える上で、重要な手がかりになるとともに、世俗画と仏画の関連を示すことになろう。(4)毘奈耶雑事巻第22などの見返絵に皆金色の仏尊表現が行なわれているのは、仏画の表現史においてかなり早い例となり、無視できない。