研究課題
基盤研究(A)
今回の調査で取り扱ったのは、金剛峯寺所蔵分1125巻、観心寺所蔵分216巻、中尊寺所蔵分16巻である。ただし、観心寺所蔵分216巻のうち、中尊寺経とみなされるものは金銀字経166巻金字経10巻のみである。また、今回対象の金剛峯寺所蔵分には銀字経はなかったが、金字経として『妙法蓮華経』巻第1から第6の6巻がある。これは広義の中尊寺経のようであるが、清衡経よりは少し年代の下降するもので、たとえば二代基衡発願の金字法華経といったように他から混入したものと思われる。ほか、今回の調査で得られた知見は以下のとおり。まず、見返絵についてであるが、金剛峯寺所蔵分1125巻のうち、説法図以外のいわゆる異形の見返絵は24巻ある。また説法図ではあるが、定型的な正面型ではなく斜め型に描くものが8巻見られる。一方、観心寺金銀字経166巻、および金字金光明最勝王経10巻につていは、欠失による不明分を除きすべて通常の説法図である。金光明最勝王経は金字経であるが、その見返絵の作風と構成は清衡経に近く、見返絵から判断する限りでは清衡経から年代的にさほど隔たらない時期のものと思われる。異形の見返絵はひとりの画師によっ描かれているわけではなく複数の画師が関与している。表現に自信のある画師がたずさわっているという印象が強い。また、説法図の表現について、鎌倉時代以降に普及する皆金色技法の先駆的形態が現われている点も注目される。