研究課題
本共同研究において、田中穂積「ヘレニズム世界におけるギリシャ人とバルバロイ」は、元来古典期ギリシャにおいて成立した著しく差別主義的なバルバロイという概念が、ヘレニズム世界では著しくその差別主義的な色彩を薄めるにいたった事情をさまざまな視角から明らかにした。武本竹生は「ナポレオン体制の民族問題」において、外に対してはフランス革命の自由平等思想の伝播者であったナポレオンが、内においてはユダヤ人に強制的に同化政策を押しつける圧政者であった事実を明らかにしている。田中きく代「19世紀中葉の民間児童救済にみる移民問題」は、19世紀後半アメリカで行なわれた孤児列車と称する移民子弟に対する民間慈善活動がじつは西部の労働力需要に依存した新たな児童遺棄の形態に他ならなかったとしている。根無喜一「情報支部から情報部へ:近代民族主義の時代における英国陸軍改革について」は、普仏戦争におけるプロイセン・ドイツの勝利に衝撃を受けたイギリスの陸軍改革を、とくに1880年代の陸軍情報支部の動員計画問題に焦点をあてて考察し、黒住宏は「帝国・国家・地域--第一次世界大戦下のハプスブルク帝国の食料危機」において、第一次世界大戦後期のハプスブルク帝国における食料危機の実態から、帝国の地方官庁の割拠性の実態を解明した。栗原優「戦後ドイツのユダヤ人」は、第二次大戦後のドイツではユダヤ人の同化が広汎に進行しているが、これが逆にユダヤ人社会にユダヤ人アイデンティティにかんする危機意識を呼び起こしつつある事情を明らかにしている。以上、西洋史における民族と人種の問題は時代により地域によりさまざまであり、容易に結論的な概括を許さないが、しかし、我々は少なくともそれへ向けての新たな重要な史実を提供しえたということができると思う。
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