研究課題
本年度も、前年度に引き続き絵画資料と国文学の関わりについて、古代・中世・近世の時代区分、絵巻・絵本・屏風絵・掛幅・版本の挿絵といった絵画資料の形態とも対応させて共同の研究を進め、(1)奈良絵本の絵画様式、物語本文との関係、(2)屏風絵・掛幅・画帖の国文学資料としての意義、(3)版本の改版などの挿絵の位相、(4)版本の挿絵と浮世絵との関係性、(5)参詣曼茶羅や十界曼茶羅図などの様式論、などの研究討議を行った。本研究の柱である『室町時代物語大成』に省略された絵画(挿絵)資料の調査収集も前年に引き続き行い、奈良国立文化財研究所、徳川美術館、東大寺図書館等の調査を実施した。しかし、絵画資料の集成には、大変時間と経費を必要とするもので、短時間に成果を挙げることに困難が予想される。本年度の具体的成果としては、コンピュータによる画像処理方法、画像と解題を結び付けた資料の目録化に一応の見通しが得られ、新しいメディアによる調査、研究、情報公開の方法への基礎を確立した。また、絵画資料の国文学の資料としての有効性に関して、長恨歌抄と長恨歌絵巻を例にあげ、我が国の漢籍の注釈の孕む諸問題について、特に絵画も注釈の一部という観点より検証を行い、絵の形態に注目し、テキストが絵画化されることによって、本文からの逸脱や解釈を生じていることを通史的見地から解明した。抄物の成長過程で見られた付加や逸脱が、絵画の中に於いても、本文に無いものや粉本に存在しない場面として、同様に描かれることは注目されることである。特に近世初期に於ける版本と鈔本の相互関係について、いくつかの具体的影響関係の事例を指摘することが出来た。