小動物の胚および成体に与えるトリチウムの影響

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06304047
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 伊藤 明弘 広島大学, 原爆放射能医学研究所, 教授 (60034633)
• 研究分担者: 山田 武 東邦大学, 医学部・生物学科, 教授 (30166714) ; 上口 勇次郎 旭川医科大学, 生物学科, 教授 (60091568) ; 一政 祐輔 茨城大学, 理学部・生物学科, 教授 (30007760)
• キーワード: トリチウム水 / 細胞障害 / 生殖細胞 / 胎児 / 染色体異常 / 脳組織障害 / 腫瘍発生 / 遺伝子導入

研究概要

近年の原子力開発において核燃料中で起こる三体核分裂や、一次冷却材料中でのリチウム、ボロン同位元素および重水素の中性子放射化反応によりトリチウムが生成することが知られている。こうして産出された地球上のトリチウムのほとんどはトリチウム水(THO)の形で存在している。
THOは、水そのものの性質を有することから当然生体への親和性も良く、一個体を考えた場合、いずれの投与においても他の多くの放射性同位元素と異なって全身にくまなく散布されると考えられる。しかし、トリチウム水の内部被曝による細胞障害は、細胞種によって感受性に差異がみられることから、トリチウム水の生体への影響は細胞・個体レベルを通して多角的に評価する必要がある。一方、今日の放射線生物学研究では、中・低LET放射線の外部被曝による有益効果や適応応答など、生体の応答の多様性の研究に注目が集まっている。
本研究班は、哺乳動物の細胞及び個体を用いてHTOと生体の反応を他面的に研究している。細胞を用いた研究では造血系細胞を用い、微量トリチウム水による突然変異の修飾効果、染色体異常を指標として各種放射線との比較を行っている。生体を用いた研究では受精及び胚細胞期における生殖細胞への影響を調べ、さらに妊娠ラットにトリチウム水を投与し、ラット胎児でのトリチウムの局在を調べている。また、放射線に感受性の強い消化管粘膜障害をHTO投与したマウスで観察し、遺伝子導入マウスを用いて肺での突然変異率の検討を行っている。さらに、動物個体を用いた研究では、マウス胎児の中枢神経系の発達に及ぼすトリチウムの影響を行動学的および脳組織で形態学的に定量化し、トリチウムβ線の終生被曝による影響をマウスを用いて主として腫瘍発生のスペクトラムを中心に検索している。

研究成果

• [文献書誌] Ichimasa,Y.,Shibata,H.,Ichimasa,M,.Akita Y.: "Suppression of tritium gas oxidation in rat by norfloxacin and clindamycin" Int.J.Radiat.Biol.(in press). (1995)
• [文献書誌] Matsuda,Y.,Yamada,T.,Tobari,I.: "Chromosome aberrations induced by tritiated water or ^<60>Co γ-rays at early pronuclear stage in mouse eggs" Mutation Research. 160. 87-93 (1986)
• [文献書誌] Kamiguchi,Y.,Tateno,H.,Mikamo,K.: "Dose-response relationship for the induction of structural chromosome aberrations in human spermatozoa after in vitro exposure to tritium β-rays" Mutation Research. 228. 125-131 (1990)
• [文献書誌] Tanaka,K.,Sawada,S.,Kamada,N.: "Relative biological effectiverness and dose rate effect of tritiated water on chromosomes in human lymphocytes and bone marrow cells" Mutation Research. 323. 53-61 (1994)
• [文献書誌] Tauchi,H.,Sawada,S.: "Analysis of mitotic cell death caused by radiation in mouse leukemia L5178T cells:apoptosis is the ultimate from of cell death following mitotic failure" Int.J.Radiat.Biol.65. 449-455 (1994)
• [文献書誌] Takahashi,T.,Watanabw,H.,Dohi,K.,Ito,A.: "^<252>Cf relative biological effectiveness and inheritable effect of fission neutrons in mouse liver tumorigenesis" Cancer Research. 52. 1948-1953 (1992)
• [文献書誌] Yamada,T.,Ohyama,H.: "Proceedings of the 3rd Japan-US workshop on tritium radiobiology and health physics (ed.S.Okada),Nagoya Univ.press" Effect of organically bound tritium(OBT)on pre-implantion mouse embryos in vitro, 6 (1989)
• [文献書誌] Mikamo,K.,Kamiguchi,Y.: "Radiation-induced chromosome damage in Man,Alan R.Liss,Inc." A new assessment system for chromosomal mutagenicity using oocytes and early zygotes of the Chinese hamster, 22 (1983)