研究課題
本研究では、近世社会において人々が暮らしていくうえで不可欠な衣食住全般の再生産の姿を明らかにするために、いわば農業技術のハード・ソフトの両側面をあわせもった文献群、すなわち「広義の農書」を課題とする。第I期『日本農書全集』(全35巻、農山漁村文化協会)は「自然立地と農の営み」という観点にたった編集で、近世の農業技術書という「狭義の農書」が中心であった。本研究では、これに加えて近世農書を狭い産業技術の枠に閉ざすことなく、ヒト・モノ・情報の三側面から産業技術に接近し、地域における生産と消費と文化を一体のものとして把握する「地域形成」の視角を導入し、近世農書の総合的研究をめざす。近世の「狭義の農書」の周辺には本草書、救荒書、物産書、農業・百姓従来物、土木・治水書、農民心得・家訓書、農事日誌類、農業法令書、農政書、地方書、蚕書、林業書、漁業書、畜産・獣医書、園芸書などの多様な第1次産業関係の文献や、これらの文献を引用・改変した2次農書が数多く存在しており、いずれも相互に密接な関連をもっている。本年度は昨年度に続き、近世の「広義の農書」をテーマ別に分類し、全国各地の図書館、郷土資料館、博物館、旧家などに散在している近世農書を発掘・収集し、その歴史的性格を分析した。このテーマは〈特産〉〈農産加工〉〈園芸〉〈林業〉〈漁業〉〈畜産・獣医〉〈農法普及〉〈農村振興〉〈開発と保全〉〈災害と復興〉〈本章・救荒〉〈学者の農書〉〈地域農書〉〈農事日誌〉〈絵農書〉の15分野とした。研究代表者及び分担者は全国各地でテーマごとに史料調査を実施し、その成果を踏まえて研究会を開催した。また、本年度も第II期『日本農書全集』(全37巻、農山漁村文化協会)のうち6巻を刊行した。
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