研究課題
基盤研究(B)
本研究では、近世農書を近世社会において人々が暮らしていくうえで不可欠な衣食住全般の再生産の姿を明らかにするために、いわば農業技術のハード・ソフト両側面をあわせもった文献群として位置づけ、近世農書を狭い産業技術の枠に閉ざすことなく、ヒト・モノ・情報の三側面から産業技術に接近し、地域における生産と消費と文化を一体のものとして把握する「地域形成」の視角を導入した。全国に散在する近世農書の史料調査を実施し、15テーマに分類し、それぞれの個別農書の目録を作成した。その点数は<地域農書>92点、<農事日誌>14点、<特産>27点、<農産加工>18点、<園芸>5点、<林業>4点、<漁業>10点、<畜産・獣医>6点、<農法普及>20点、<農村振興>6点、<開発と保全>10点、<災害と復興>15点、<本草・救荒>5点、<学者の農書>33点である。なお、<絵農書>については調査を継続中である。近世農書は現代日本の社会と農業を根源から問い直す古典である。それは、長い年月の批判に耐え、時代をこえて読むに値する民族の宝というべきものである。現代の日本農業が高度な機械化・化学化・装置化の技術段階にあるとはいえ、その基層には近世社会の在来農法の水脈(近世農書の世界)が大きく横たわっているのである。農林漁業が安全・安価・新鮮な衣食住の原材料を供給する役割をもった産業であり、人間の生命と自然の営みを守ってきたことは、地域と時代をこえた真理である。地球規模での環境汚染が問題となっている現在、日本農業の健全な発展のためには、まずもって近世農書をひもとくことから始めなければならないのであろう。
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