本研究のねらいは2つあった。一つはCeNiSnやCeRuSb等のような近藤格子絶縁体物質の全体的な電子構造を明らかにすること、二つめはこれらの物質におけるf電子に起因する強い電子相関の為、電気伝導や帯磁率等のマクロな物理量に普通の金属にはみられない異常が現れるがこの特異な物性発現の起源となる低温で形成されたエネルギーギャップとその中の微細な電子構造を明らかとすることである。第一の目的のためには先ずこの物質の価電子帯と伝導帯に関する全体的な(大まかな)電子構造を明確にする必要がある。このため分子科学研究所や東京大学物性研究所の軌道放射光施設との共同研究を進め放射光を用いた30eV-2meV領域での極めて広いエネルギー領域にわたる反射率を測定し、この物質の光学定数を求めた。観測されたスペクトル上のピークをこれとは独立に行われた価電子帯と伝導帯に関する電子分光実験やバンド理論から得られた結果と比較することによってその起源を同定する事が出来、これらの物質の電子構造を明らかにすることが出来た。第二の目的のために低温におけるCeNiSnのサブミリ波-ミリ波透過実験を行い、液体ヘリウム温度でのみで約10cm^<-1>以下の光が僅かに透過することを突き止めた。この光の透過実験からこの物質が低温でエネルギーギャップを形成することが初めて確定できた。詳しいスペクトルの温度変化の実験がこのギャップの形成機構についての情報を与えてくれるものと思い実験を進める予定であったが、この時点であの阪神大震災に見舞われ実験を続行することが出来なくなった。途中で中断せざるを得なかったもののわれわれとしては当初目的の90%は達成でき、概ね目的は達せたと思っている。今後、震災に対する文部省からの復興資金の援助等を得て研究を推進し、より一層の成果を挙げたいと望んでいる。
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