CERNにある低速反陽子リング(LEAR)から供給される数MeVの反陽子は減速薄膜を通した後、ペニングトラップに捕獲することができる。ところで、ペニングトラップには、同時に2次電子が多量にトラップされており、これらの電子はトラップの磁場によりシンクロトロン放射を通じて冷却される。反陽子はこの冷却された電子とクーロン相互作用するため、やはり冷却され、最終的にはトラップ内壁の温度程度までは冷えるものと考えられている。 本研究では、積極的に電子銃により電子をトラップ中に注入し、冷却効率を飛躍的に向上させることに成功した。この際、冷却された反陽子の残留ガスとの消滅効率が、従来考えられていたようにその速度に反比例するのではなく、少なくとも適当な値で頭打ちになるという興味深い示唆を得た。 本研究費の主要部をつぎ込んだ超低速反陽子の輸送系と散乱槽は、国際学術研究の助けを得て現在CERNに輸送され、本実験を行うまでになっている。本実験のスケジュールは、LEARのビームタイム配分、また、LEARの故障等のため、遅れてはいるが、ビーム引き出し等、必要な基礎技術はほぼ確立しており、来年度初頭には信頼性のある実験結果が得られるものと考えている。
|