研究概要 |
本研究では,超伝導電力機器の実用絶縁設計において考慮すべきクエンチ時の絶縁環境を想定し,液体ヘリウムの動的絶縁破壊特性およびそのメカニズムを明らかにすることができた.超伝導線(あるいは超伝導コイル)-平板電極系を液体ヘリウム中に浸漬し,クエンチ・絶縁破壊合成実験を行った.本研究によって得られた主な知見は,以下の通りである. 1.超伝導線が過電流通電によってクエンチすると,ジュール発熱に伴う多量の気泡が発生し,液体ヘリウム中の高電界ギャップ空間は擾乱状態となる.このような気泡群による擾乱状態の中で,液体ヘリウムの動的絶縁破壊電圧は静的絶縁破壊電圧の20%以下にまで低下し得る. 2.超伝導線のクエンチ後における気泡挙動を高速度ビデオによって光学的に観測するとともに理論的に解析した.超伝導線-平板電極系の不平等電界下では,超伝導線近傍の高電界領域の気泡に作用するグレディエント力が浮力の100倍以上となり,クエンチ後の気泡群の挙動を支配する. 3.超伝導線のクエンチから動的絶縁破壊に至る過程には,msオーダーの時間遅れが存在する.不平等電界下においては,動的絶縁破壊の前駆現象として,超伝導線近傍の高電界領域に存在する気泡群中に部分放電が発生する.部分放電は気泡群の進展とともに成長した後,動的絶縁破壊に至る. 4.超伝導コイル-平板電極系の動的絶縁破壊は必ずしも最短ギャップで発生するとは限らず,超伝導線-平板電極系よりも複雑な様相を呈する.また,クエンチは超伝導コイル面上を2次元的に伝搬し,ジュール発熱量が最も大きいクエンチ発生点において動的絶縁破壊が誘導される.
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