研究概要 |
本課題は聴覚系や発声系の欠損や機能低下を補助する方式を探るために生体音響学の観点から研究を進めることである。具体的には、聴覚代行,音声認識,盲人補助,発声代行などの研究に焦点が絞られ,いずれも生体音響学が底流にある。本年度得られた成果を以下に要約する。 1)触覚を介する聴覚代行では,従来の音声スペクトルを振動パターンに変換するよりは,振動パターンに加えて点字のような凸点パターンを利用し,それを指先上をスウィープすることにより音声認識率が大きく向上することを見いだした。 2)聴神経電気刺激法で耳鳴り患者の1/3が改善されることを,約1000耳による検査を通じて明確にした。ただし,耳鳴り消失は一過性であったので,耳鳴りが始まったら自分で治療できるような埋め込み式耳鳴り治療器を開発し,現在まで7名に適用し,良好な結果を得ている。さらに、電気刺激後に音声の聞き取りが改善されるなどの知見を得ており,聴神経の電気刺激が色々な効果を与えることが次第に明らかにされてきた。 3)喉頭摘出者のための人工喉頭については,患者の呼気圧でピッチ周波数を制御させることで極めて自然性の高い音声が生成されることを把握してきた。本年度は訓練の有無,個人差による差異などを明確にした上で試作器を作り,実際に患者に適用してその有効性を確かめた。さらに,本装置は福祉用具実用化開発助成制度で採択され2年後には製品化されることが決定し,広く普及させる足がかりを得た。 4)本課題を遂行している過程から,高齢者の感音性難聴には音声を「ゆっくり」「はっきり」聞かせる補聴器が有効であることが判明し,「ゆっくり」聞かせる話速変換型補聴器を開発・実用化するとともに,イントネーションを強調する「はっきり」聞かせる補聴器の有用性を明らかにした。
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